ーその2−
黒 津 一 英
4. 福寿院

 杉山神社の南、徒歩約5分の処に、つくし野の菩提寺、河上山福寿院がある。当初の建物は、住職の墓の年号、安永から推して、約220年前に建てられたものと思われる。

 樹齢100年を越える杉木立ちに囲まれた本堂の左手に、水子地蔵尊2体、その後ろに13重の石塔と鐘撞堂が建ち、本堂の右手に、弘法大子修業像が安置され、左手には、地蔵堂、観世音堂が鎮座している。

 本堂の建物は、青銅の屋根の棟に金色の紋章が輝き、中は美しい模様に彩られた格子天井、金色燦然とした光背の阿弥陀仏、釣り下げられた飾は見事である。本堂横の落慶記念碑を見ると、昭和56年3月着工、昭和57年12月竣工とある。
  


5.つくし野 殿山

 郵便局前通りを北に進むと、JRのガード横に、こんもりと森に包まれたつくし野 殿山がある。山の麓から湧き水が流れ、小さな池を作っており、水面を覗くと、無数のおたまじゃくしが泳いでいた。

 クラブはんどれっどでは、この池に蛍を飛ばす計画を進めている。緩やかな坂道を上ると、頂上にはベンチが2脚置かれ、周囲の眺めは捨て難いものがあった。

 山を下りると、左手JRの線路沿いに、緩やかな坂道があり、少し上ると横手に湧き水が流れ、「この水は飲めません」という表札が貼られていた。


6.つくし野の森と明治、大正の遺跡

 つくし野駅の東口より左手線路沿いに坂を下ると、まもなく右手に森が見 えてくる。
中に入ると、鬱蒼と生い茂った林の中を、土の香匂う細道が続く。



やがて中程までくると、左手の斜面に荒れ野原が現れる。かつては畑であ ったが、今は見る影もない。
少し行くと野原の入り口に、下記看板が見えて きた。

      学校施設建設予定地  学校法人森村学園

 畑転じて荒れ野原と化したのは、森村学園で買収したためであろう。 つくし野に残された唯一の自然もやがては消え去るであろう。 開発の波にむしばまれ行く自然の姿を目の前にして、暗澹たる思いを禁じ 得なかった。

 やがて森が尽きると、小さな社が見えてきた。金比羅神社、八坂神社であ る。 拝殿の前に小さな狛犬があり、その下に下記の如く書かれていた。

      御大典記念  平成2年11月吉日 
      寄進者   高橋 定雄
                  ツネ子

 年号から推して、今上天皇のご即位を祝して奉納されたものであろう。

 更に下に降りると、下記記念碑が立っていた。 

                     日露戦争記念碑  希典
 
                       殉国之士芳名録

       大正8年9月28日  西比利亜出動中発病、横須賀戊衛病院に於いて病死。
                     陸軍砲兵伍長 勲8等 高橋富茂  

       大正10年12月3日 朝鮮守備中発病、広島衛戊病院に於いて病死。
                    陸軍歩兵一等兵 阿部末太郎

       昭和11年2月14日 満州守備中発病、広島衛戊病院に於いて病死。
                     陸軍砲兵上等兵 井組悦弘

       昭和12年10月4日 支那事変に出動、第一師団野戦病院に於いて病死。
                     陸軍歩兵伍長 三部長吉  

       昭和13年9月12日 支那事変に出動、江西省西弧嶺に於いて戦死。
                     陸軍砲兵上等兵 久保田豊吉

       昭和13年12月1日 支那事変に出動、威海衛付近に於いて戦死。
                     海軍一等水兵 久保田魚治


                     忠 魂 碑 希典


                    皇太子殿下御野立之跡
                       大正11年11月
               神奈川都築郡長 従7位 伊藤龍雄 謹書



 日露戦争記念碑、忠魂碑の「希典」は、乃木希典将軍のことであろう。

 殉国の士芳法名録にかかれた「大正8年の西比利亜出動、大正10年の朝鮮守備、昭和11,12,13年の支那事変に出動」の文字から、戦前日本がかかわった戦争と、これにより亡くなられた兵士の家族の深い悲しみが胸に伝わり、暗然たる気持ちを禁じ得なかった。

 皇太子御野立の跡とは、当時この辺りで、大演習が行われ、皇太子殿下の野外の休息所がおかれたところであろう。

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平成19年5月21日